SECOND TAKE BUSINESS × LIFE

ST.001再起/決断/新規事業

千考えて、十動く。一度目の起業に失敗した21歳が、二度目に選んだこと

学生向けのスマホロッカーは、貯金の半分を溶かして終わった。名古屋大学の学生だった彼は大学を一旦脇に置き、東京で経営者のそばに1年立った。2026年5月にCentral AXを創業し、4か月でクライアントは約40社。軽やかに見える決断の裏には、本人いわく「石になるほど」の思考量があった。

松浦 淳(株式会社Central AX 代表取締役)
RECORDED IN OSAKA / 2026.10.20

In brief3分で読む要点

  1. 大学1年で遊び切り、2年で起業。スマホロッカーも過去問サイトも、収益化できずに終わった
  2. 「世間を知らなすぎる」と東京へ。経営者のそばで1年、意思決定の理由を聞き続けた
  3. 2026年5月にCentral AXを創業。4か月で約40社のAI実装を、対面の伴走で支えている

「僕、めっちゃ考えちゃうんですよ」

決断が速い人ですね。そう水を向けたときに返ってきたのが、この言葉だった。

株式会社Central AXを立ち上げたのは2026年5月29日。東海を拠点に企業のAI実装支援を手がけ、創業から4か月でクライアントは約40社にのぼる。取材の日も、午前中は大阪で企業向けのAI研修に立っていた。数字だけを並べれば、迷いのない若い経営者に見える。

だが代表の松浦淳さん(21)は、自分を「百考えて、ようやく一動けるタイプ」だと言う。一度目の起業は、うまくいかなかった。その失敗のあと、彼は何を考え、何を選んだのか。

Scene 01一度目は、貯金の半分がロッカーに消えた

松浦さんが育ったのは、兵庫県姫路市の家島。人口二千人ほどの、信号もない島だ。名古屋大学への進学を機に、一人暮らしを始めた。

大学1年の1年間は、あえて遊んだ。いわゆる「ザ・大学生」の1年を、本人は意図的だったと振り返る。

松浦遊ばずに大人になって、青春をこじらせるのが一番痛いと思っていたんです。だから全力で遊びました。めちゃくちゃ楽しかった。でも、これ掛ける4で人生終わりたくないな、と思えたんです。

遊び終えると、ずっと胸にあった起業に動いた。学生向けのスマートフォン専用ロッカー、過去問サイト。プログラミングも勉強した。結果は、どれもうまくいかなかった。

松浦貯金が10万円あって、5万円がロッカー代に消えるみたいな。調達も知らないのに、ハードウェアに手を出しちゃって。マネタイズという単語すら知らなかったんです。「絶対これ需要あるわ」と思って楽しくやっていたけど、現実的にお金がないと続かへんのよな、と。NPOかボランティアみたいになっていました。

そこで出した結論は、事業の立て直しではなかった。足りないのは自分の側だ、と考えた。

松浦自分、ちょっと世間を知らなすぎるかも。ビジネスを勉強しないと。世間への解像度を上げたい、と思いました。

世間への解像度を上げたい。

Scene 02東京の1年。社長の「選んだ理由」を聞き続けた

起業を勉強させてもらえる場所を探そう。そう決めて、東京へ向かった。「日本のビジネスの中心は首都の東京にあるんじゃないか、という浅はかな思考で」と本人は照れるが、動き方は具体的だった。DMなどでいろいろな人に連絡を取り、会ってもらう。その中で「この人から学びたい」と思える経営者に出会い、そこで働かせてもらうことになった。

東京へ発ったのは2025年10月。仲のいい大学の友人には「ごめん、ちょっと1年ぐらい東京おって、あんま帰ってこへんかも」と告げた。大学をどうするのかと聞かれ、「一旦あとで考えるわ」と返した。

実際には、どんな1年だったのでしょう。

松浦イメージとしては、社長のカバン持ちです。実際にカバンを持ったことはないんですけど(笑)。会食に連れて行っていただいたり、実務もやったり。その中で一番よかったのが、社長の思考回路を知れたことでした。

松浦たとえばAとBの二択があって、社長がBを選んだとします。「こういう理由でBを選んだんですか」と聞くと、「それもあるにはあるんだけど、こっちの理由のほうが大事で選んだんだよ」と返ってくる。意思決定の裏側を覗かせてもらえたのが、本当に勉強になりました。

怖さはなかったのですか。同じことを考えても、実行できる人は多くありません。

松浦人間は変化を嫌うものだと思うので、抵抗はもちろんありました。ただ、思っていたことが二つあって。一つは、大学1年で遊び切っていたこと。全力で遊んだから、もういいと思えた。もう一つは、一度起業で失敗していたこと。失敗していたからこそ、抵抗感が薄かったのかもしれないです。

失敗していたからこそ、抵抗感が薄かった。

Scene 03二度目は、「わからない人」の隣に座る会社をつくった

修行を経て、2026年5月に立ち上げたのが株式会社Central AXだ。手がけるのは企業のAI実装支援。重きを置くのは、対面での伴走だという。

松浦ツールを導入する企業はすごく多いんです。でも現場レベルでは、導入しただけではなかなかAI化が進んでいない。だから現場に寄り添う形で、伴走支援をしています。

AI導入の支援をうたう会社は少なくない。違いを尋ねると、松浦さんはまず実績を挙げた。法人営業では「最強の営業資料は、どこまで行っても実績」だと考えている。AIエージェントの「Claude Code」にはリリース日から触れてきたといい、その使い方と、企業への導入で積み上げたノウハウを現場に持ち込んでいる。

もう一つの特徴は組織にある。AI講師もエンジニアも、あえて学生を中心に育て、採用している。

松浦「え、そこもわからないの?」みたいな、高圧的な態度を取ることが一切なく、柔らかく教えられるんです。中級者を上級者にするセミナーももちろんできます。でも一番インパクトを出せるのは、初心者の方をAIが使えるレベルまで連れていくところだと思っています。

活動の場は、東海が半分、大阪と東京で半分。経営を始めて意外だったことを聞くと、「いい意味で、ちゃんと仕事をしたら、ちゃんと評価してもらえることでした」と答えた。

松浦学生のころは「社会に出たら、努力しただけ評価される世界じゃないぞ」とよく言われました。大企業に入ったことがないので、そちらはわかりません。でも会社を経営していると、やればやるだけ結果が返ってくる感覚があります。十個施策を打って三個成功するなら、十個打てばいい。丁寧に仕事をすれば、ご紹介をいただけたりもする。そこは、いい意味で裏切られました。

Scene 04百考えて一動くなら、千考えて十動く

大学を脇に置いて東京へ行き、戻って会社をつくる。外から見れば、フットワークの軽い人だ。そう伝えると、松浦さんは「むしろ逆なんです」と言った。

松浦僕、全然動けないタイプなんです。めっちゃ考えちゃうんですよ。失敗したらどうしようとか、公務員になったほうが安定なんじゃないかとか。百考えて、ようやく一動けるタイプなんです。

だから、日頃から自分に課していることがある。

松浦百考えて一動くんやったら、千考えて十動けるようにしよう、と。むしろもっと考えよう、と思っています。だから、どんな問いが来ても、ある程度は即決できる状態にあると思います。

速く見える決断は、考えることを先に済ませてある結果だった。「考えすぎて、石になってると思います。ロダンの考える人、多分中身は僕です」と冗談めかす。

考え続けることは、ぶれない軸にもなる。取材の前に食事をともにしたとき、印象に残ったのは、21歳とは思えない落ち着きと、相手の話を聞く姿勢だった。その理由を、松浦さんは二つ挙げる。

松浦一つは、昔から人より大事なものはないと思ってきたことです。マンモスは一人では倒せなくても、集まれば倒せる。人間は集団として勝ってきた生き物なんやろうな、と。だから人を大切にし続けてきました。もう一つは、毎日考えているから、意思決定がぶれないこと。たとえば会食で「この人とは合わなそうだ」と感じたら、いくら売上が立つとしても、中長期で見てここで迎合する必要はない、と判断できる。自分の軸があるんです。

千考えて、十動けるようにしよう。

Scene 05泣きながら、パソコンを打っていた

SECOND TAKEは、ビジネスの話と、その人の人生の決断とのつながりを掘るメディアだ。だから毎回、同じことを聞く。一番きつかった時期はいつですか、と。

「人間すぎて恐縮なんですけど」と前置きして、松浦さんは失恋の話をしてくれた。高校2年の七夕に告白し、3年半付き合った相手がいた。「本気で結婚すると思っていました」。別れたのは大学2年、ちょうど東京へ向かうころだった。

松浦人生で一番しんどかったかもしれないです。でも仕事はあるし、絶対にやりたかった。切り替えはちゃんとしたかったので、パソコンは打つんです。打つんですけど、涙ボロボロ、みたいな。

別れの前と後で、何が変わったのか。答えは「メンタルの強さです」と明快だった。修行先ではオフィスに寝泊まりし、月に400時間ほど働いた。頭がおかしくなりそうな時期もあったという。その日々を振り返って、松浦さんはこう考えている。

松浦もし当時も付き合っていたら、いま起業しているのかな、と思うんです。あの子なら「そんな泣くほど頑張らんくてもええんやで。休んで、また挑戦したくなったらしたらいいし、淳のままでええやん」と言ってくれたと思う。そうしたら、諦めていた可能性もあった。あのとき離れていたからこそ、全部自分でとことん考え尽くすしかなかった。ちゃんと自分と向き合って、意思決定できたんです。

背水の陣ですね、と返すと、「人間は死に近づかないと、弱いんで何もしない」と言い切った。

では、その痛みをどう乗り越えたのか。答えは「乗り越える」ではなかった。

松浦ずっと抱えながら生きていました。ただ、何が定数で何が変数かは、常に考えていて。自分がいくら考えても動かない事実はあるし、それに向き合い続けてもしょうがない。だったら、目の前の今できることを頑張ろうと。悲しい、つらいという感情は押し殺せないから、それはそれでしょうがない。抱えたまま生きていくしかない、と思っていました。

松浦「うわー、俺いまめっちゃつらいな。論理ではわかってるのに、ずっと考えちゃってるな。自分、人間すぎるわ」って。そんな人間な自分も、愛してあげるしかないな。そんなメンタルだった気がします。

そんな人間な自分も、愛してあげるしかない。

Scene 06物語は人を動かす。だから欲望は、正しく真似る

松浦さんには、大切にしている持論がある。物語が人に与える影響は大きい、というものだ。

松浦物語って、理論や枠組みを超えて人に影響を与えると思うんです。世界で一番、人の行動規範を変えているものは何か。宗教だと思います。どこかの時代の誰かがつくった物語が、いま数十億人の行動を動かしている。日本なら漫画やアニメですよね。僕の周りにも「俺は麦わら海賊団をつくるんや」と言っている起業家がいます。人の行動を変えるものとして、物語以上のものは正直ないと思っています。

それを肌で感じた出来事がある。東京での修行の話を、AIを一切使わずに自分で書き、Xに投稿した。すると十人ほどから「自分もその道をたどりたい。おすすめのインターン先はありませんか」と連絡が来た。何人かとは実際に会い、知り合いの経営者を紹介した。

松浦僕の人生の二年ぐらいを切り取ったものを見て、実際に行動してくれた人が十人いる。会うまで顔も知らなかった人たちの人生に、確実に何かしらの影響を与えているんです。

ただし、物語の受け取り方には注意がいる、と松浦さんは続けた。

松浦人間って、誰かの欲望を真似しているんです。そのとき、欲望を正しく真似ることがすごく大事で。iPhoneをつくりたい人が「スティーブ・ジョブズになりたい」と言ったらダメだと思うんです。ジョブズは、ジョブズになりたくてジョブズになったわけじゃない。世の中を変える革新的なハードウェアをつくりたかった。真似すべきは、そっちの欲望です。誰かに憧れたときこそ、その欲望の模倣先を考えたほうがいい。

では、松浦さん自身が一番影響を受けた物語は何か。そう聞くと、少し考えてから「ここで答えられないのが、すごく悔しい」と言った。「いろんな物語から影響を受けて出来上がっているのが自分なので。複雑な塊なんです」。

真似すべきは、そっちの欲望です。

Scene 07世界で一番、分厚い人間に

21歳で、なぜここまで自分の軸を言葉にできるのか。スポーツの経験を聞くと、バドミントンを10年続けたという。だが、根っこにあるのは別のものだった。

松浦根本的に、笑うのがすごく好きなんです。自分自身もゲラだし、人を笑わせるのが生きがい。人を笑顔にできる人って、やっぱり力があるんですよ。その力を手にするには、お金を稼ぐことも、人としての器の大きさも、いろんな要素が要る。だから僕は、世界で一番分厚い人間になりたいって、ずっと思っていて。

人と話すのは誰とでも好きで、会食では相手そのものに興味津々になれる。それは一種の才能かもしれない、と最近は思う。一方で、話が合わない相手がいることも自覚している。

松浦いま僕がスティーブ・ジョブズと話が合うかといったら、僕の実力不足で合わない。もっと実力を上げて、いろんな人と対等に話せて、笑い合えるところまで自分を持っていきたい。その成長欲求を、僕は「分厚い人間」と呼んでいます。

根本は、と付け加えた。「毎日笑っていたいですね。みんなと」。

最後に、これから起業を考える人へのメッセージを求めた。「こういう質問をされると思っていなかった」と言いながら、答えはすぐに返ってきた。

松浦僕がここで名言っぽいことを言っても、一瞬「うおー、かっこええ」と思うことはあっても、君が行動する確率は、はっきり言ってゼロだと思っています。百人聞いてもゼロ、千人でもゼロ。一万人聞いて一人いるかどうか。だったら、ここまで聞いてくださった方の人生に一つでもプラスになるように、僕に連絡をくれたらと思います。「こう考えなさい」と言うより、僕が質問を投げかけたり、「これを聞いてどう思った?」と話したりするほうが、よっぽど役に立てる。XでもCentral AXのホームページでも、手段は何でもいいです。本気だったら、すると思うので。

松浦ペイフォワードじゃないですけど、僕が先輩からいただいたものを返せたら、すごくうれしいです。

収録を終えると、録音を確かめる聞き手の横で「撮れてなかったら、また来ます」と笑った。一度目の失敗を経た21歳は、撮り直すことを少しも怖がっていない。

松浦 淳

Profile

松浦 淳株式会社Central AX 代表取締役

兵庫県姫路市・家島出身。名古屋大学在学中に起業を試みるも収益化できず、東京の経営者のもとで1年間修行。2026年5月に株式会社Central AXを設立し、東海を拠点に、対面で伴走するAI実装支援・AI研修を手がける。

Podcast

記事に入りきらなかった話を、本人の声で

EP.01を聴く(約40分)